犀の角

『1月は行く、2月は逃げる、3月は去る。』なんて言葉があるけれど、カレンダーの数字を見やれば時間がこんなにも経っていたのかという事実に直面して、「あっという間ですね」なんて人類共通語で会話しようとする。季節はすっかり春、記憶から遠のいてしまっ…

余韻で残るもの

心が重たいとき、はたまた小躍りしたくなるとき、音楽を聞いていると、心境がどんな形であれ、沿うように包みこまれるような感覚がある。音楽のちからは、目に見えないちからだけど、やはり人間にとって欠かせないものなのだと再認識する。 遡ること一週間前…

今日も無事

特段ふだんと変わりない日を繰り返しまたいでいたら、年が明けていた。紅白も時間を割いて見ようという気も起こらず家族と過ごした後は自室にこもって静かにインターネットの中をぐるぐるしていた。0時をすぎれば「HAPPY NEW YEAR」の文字とともに一斉に昨…

一人では生きていけないロマンス[2023年11月寄稿文]

人と人とが体を介して行うやりとりの一つに「抱擁」がある。わたしにはこの「抱擁」が、人類が執り行う、最も美しい行為に見えている。時間を遡れるようになったら、この行為に「抱擁」と漢字を当てた人と抱擁を交わしたい。 きっかけは、とある映画…

つよいのつながり[2023年11月寄稿文]

2023年夏、近所のキャンプ場で知り合いの家族と川に入った。お子さんは小学2、3年生の女の子。持ち寄った野菜や肉を焼いて食べたり、ハンモックで横になったり、川で遊んだりするうちに段々と打ち解けていき、帰り際にはあだ名を命名されるま…

好奇心と理性[2023年11月寄稿文]

太陽が沈んだあと、ひとは何をして過ごしているのだろう。指先を袖にしまい込んだままスーパーの品物を吟味するあのひとは、一体どこからやってきてどこに消え、誰と何を食べるんだろう。街中を笑い飛ばしながら闊歩するあのひとひ…

あなただったかもしれない

夕食後、上着を羽織って外へ出ると、ちいさく光る星星を見つけた。寒いな、もうちょっとしたら帰ろうかなと思いつつもうっとり眺めていたら、おや既視感。これは一体なんなんだろうと遡ってみると、それは一人暮らしをしていたころ、床に誤って散らかしてし…

そこ、ここ、平坦

手中に収めたスマートフォンから放たれる白い光をながめる。四角い枠に収まって映される情報は目まぐるしく更新を繰り返しているから、いつもわたしたちは追う側だ。いったい何に囚われて、こんな縮こまったものを凝視してしまっているんだろうとふと思う。…

つよい人よわい人

生活を回していると、ただ流れているだけの時間の中にあらゆる”境目”が散りばめられていることに気がつく。その根底にはきっとわたしたちにとっての「都合を良くするため」があって、「一分二分」といった細々した時間の切れ端から「ライフステージ」や「人…

プラネット

エッセイがとても好き。立ち現れた悩みごとが足取りを重くさせるとき、棚に仕舞い込んだエッセイ本をいくつか手に取り、眺めてみる。エッセイ本に出会った当初は、物語と違って、別にどこから読み進めてもいいのだしなとなんとも気楽な心持ちでいたのが、あ…